性愛と人生のルール

拓実には、負けられない女が居た。負けられないというのは主にセックスのことと恋愛のことだ。たとえ年上の女でも精力において負けたり、主導権を握られてはたまったもんじゃない。拓実はいつもそう思っていた。

人生はバランス感覚だ。

拓実は幸いなことに美に恵まれていた。同性から現金を積まれて懇願されたことも一度や二度ではない。21歳にもなって、青年っぽさというより、美しい肌と薄く張りつめた筋肉を持っていた。瞳は黒目がちで、頭一つ抜けた彼が大股で歩く時、道行く女性の誰もが振り返る。捨てるのはこっちだ。女に対してもいつもそう思っていた。直進するか、道を曲がるか。そういった直感にも長けていた。

今だってそうだ。35歳の美寧子とのセックスをこなしたあと、スポーツ自転車でキャンパスに向かっている。美寧子はコンバーチブルに自転車を乗せるのを嫌がるが、そこで別行動すると、今日は抱き合えないことを知っている。白昼、もつれこむように汐留のコンラッドの部屋に転がり込んできっかり2時間。美寧子は服を着たまま下着を下げられるのを好む。サンローランのブラウスもアズティン・アライアのスカートもお構いなしだ。すぐに濡れて、すぐに欲しがる。下から突き上げられながら、自信があるのね。卑怯だわ。と拓実をさげすみ、褒め称える。普通のセックスでは終わらない美寧子に、実は拓実はハマりそうになっていた。自身では気がつかないものの。

美寧子の太ももは20代前半の女性のそれと変わらない。屈曲位で足を抱え、射精時に彼女の中から引き抜いて下腹部に出そうとした瞬間、ぐっと太ももで性器をおさえこまれた。まるで憎まれているかのような所業。でも愛されている。小気味いいぐらいに。

浴室でシャワーを強にして、瀑布のような水圧の下、もういちど洗いながら愛し合った。さっきのような負けは赦されない。シャワーの温度と愛撫で夢中にさせて、ようやく拓実は美寧子を屈伏させた。悲鳴のような甘い声を何度もあげさせて、肩にしがみつかせた。快感だった。征服感とはこういうものかと毎回感慨深い。

キャンパスで3限目のゼミに出たあと、バーテンダーのバイトが朝まである。そのあと、バイト先の近くの愛実のアパートに行こう。そう決めて、ペダルを漕ぐ足に力を込めた。

このページの先頭へ